「IT革命」に惑わされないために

『月刊・連合』2001年2月号、連合総研短信

昨年の流行語大賞は、「IT革命」と「おっはー」だった。慎吾ママが流行らせた後者は、流行語の音韻法則にもかなっているし、明るいばかばかしさがあるからまだいいにしても、「IT革命」となると、何年も前から使われているのに、「いまさら?」という感が否めない。なおかつ、これじゃ、あまりに芸がないよね。
とはいえ、この「IT革命」に、「時代閉塞の現状」を打ち破る鍵を見出したいという気持ちが、多くの人々に共有されていることは、ほぼ間違いなかろう。けれども、よく考えてみると、「IT」も「革命」も、まるで中身がはっきりしない。実は、この分からなさが、この言葉が流行る大きな理由でもある。ブラック・ボックスに入っていて、実体がみえないものの方がご利益がありそうにみえるのは世の常である。
ところで、問題は、この実体のわからない「IT革命」が、もっともらしいご託宣をともなって、一人歩きしていることである。困った時の神頼みで、お賽銭をあげているうちはいいけれども、日本の産業社会の将来に関わる政策的実践の鍵が、ブラック・ボックスの中に入っていて、中身が分からないのではたまらない。
だれでもが、「よりよき世の中(Good Society)」の実現をめざしたいと思っている。いま日本列島を覆っている時代閉塞状況を、一刻でも早く払拭したいと願っている。けれども、その思いや願いが、現実のものとなるためには、「意図せざる結果を招かないための熟慮」が必要不可欠である。科学的政策研究は、そのために存在する。
「IT革命」という流行語に対応する現実が、いまめまぐるしいほどの速さで展開しつつあることは確かである。その実態の究明を急がなければならない。「IT革命」への過剰な期待でも、危惧でもなく、動きつつある現実の正負両面の可能性の腑分けこそが、必要とされている。これも、連合総研の新年度のテーマのひとつである