労働映画上映会について

 これまでに、多くの有名・無名の映像作家たちが、日本の労働を記録した貴重な映像を残してくれています。けれども、それらを体系的に上映し、考察し、今日への示唆を探る作業は、これまで必ずしも十分に行われてきませんでした。わたしたちは、労働研究と映画研究、そして社会運動の実践の視点から、日本の労働映画を鑑賞し、討議することをめざしています。多くの方々に私たちの上映・研究会にご参加いただけましたら幸いです。 

 第1期労働映画上映会は戦後初期の労働映画を中心に、2009年3月14日の第1回から、2009年10月10日の第6回まで、合計6回の上映会を開催しましまた。
 現在、第2期労働映画上映会を準備中です。2010年秋〜冬には第1回上映会を開始できる予定です。具体化しましたら、またこのブログでご案内します。

 以下は、第1回労働映画上映会の呼びかけ状と上映会の開催記録です。

戦後初期労働映画上映会へのご招待

<呼びかけ人> (50音順、敬称略)

阿部マーク・ノーネス ミシガン大学教授/井上雅雄 立教大学教授/河西宏祐 早稲田大学教授/佐藤洋 共立女子大学講師/篠田徹 早稲田大学教授/鈴木不二一 同志社大学ITEC/土井一清 元海員組合組合長/中野隆宣 労働ジャーナリスト/仁田道夫 東京大学教授/牧野守 映画史研究者/山本潔 東京大学名誉教授


[東宝争議の際の団体交渉。撮影スタジオで行われたらしく、天井から下がる照明用のライトが映っている。]

 かつて、日本の労働組合が、まぶしいほどの輝きとあふれんばかりの活力で、政官財の各界を圧倒した時代があった。その記録は労働運動史などの活字資料で多く公刊されている。けれども、当時、運動としての記録映画製作集団が、労働運動の輝きを貴重な映像記録として残していることはあまり知られていない。のみならず、今日ではこれらの映像記録を鑑賞することはきわめて難しくなっている。
 労働映画に限らず、戦後日本が生んだ貴重な記録映画はいまやフィルム劣化、廃棄・散逸の危機にさらされている。東京国立近代美術館フィルムセンターや大阪プラネット映画資料図書館らによる長年の貴重な努力にもかかわらず、である。だが、いたずらに手をこまねくだけであってはならない。現に2008年10月には、貴重な記録を文化遺産として未来に残すこと目的に、「記録映画保存センター」が設立され、消滅の危機にあるフィルムを保存する取り組みが始まった。けれども,事業は緒についたばかりであり、知られることの少なかった労働映画に救済の手が及ぶまでには至っていないが、そこにこそ私たちの研究の必要性がある。
 社会運動の実践にとって歴史との対話は不可欠である。今日ただいまの運動空間は、根無し草の真空状態ではなく、歴史的に規定された社会空間である以上、運動の意義をたしかめ、活性化の契機をつかむためには、われわれはいずこから来て、いずこに向かわんとするのかを不断に問い直さなければならないからだ。
 近年アメリカの社会的労働運動は、過去の運動史に学ぶ草の根の活動を地道に積み上げてきている。こうした「記憶の組織化」による「運動のレパートリー」の掘り起こしは、運動をよみがえらせる途にもつながっている。日本においても、戦後初期労働運動の映像記録を通じた過去との対話は、われわれの経験の中に埋め込まれた未来への芽、運動の基本在庫を掘り起こしていく上で、多くの示唆を与えてくれるであろう。
 それだけではない。記録された映像を記録資料としてのみではなく、表現としてとらえるアプローチにも我々はせまりたい。映画史研究の側に欠如しがちな、社会運動や労働運動への視線と、労働史研究に欠如しがちな、表現論・美学論への視線が、相互に交流することで、新しい何かをもたらしてくれる、との予感にもとづいてのことである。これは、映像資料を労働史研究の新資料として目録に組み込むにとどまらない、新しい試みなのである。
 そこで、戦後初期労働映画のいくつかを集めて上映・研究会を行い話し合いたい。今後これらの貴重な映像が、公共の財産として保存され、鑑賞され話し合われていくための第一歩を踏み出したいと思う。多くの皆さんにわれわれの趣旨をくみとっていただけたら幸いである。     

2008年12月吉日

第1期労働映画上映会の記録

  • 第1回:未熟にして高貴な輝き〜電産10月闘争の記録

作品:『われら電気労働者』(1947年、労働組合映画協議会、構成・編集:竹内信次)
解説:河西宏祐(早稲田大学人間科学部教授)        
日時:2009年3月14日(土)14:30〜17:00
場所:早稲田大学本キャンパス 14号館404教室

  • 第2回:労働映画とその研究の先駆―プロキノとその研究史

作品:1.第12回東京メーデー/2.土地/3.全線/4.山宣葬/
5.山宣渡政労農葬/6.スポーツ
解説:牧野守(映画史研究者)/佐藤洋
日時:2009年4月11日(土) 14:30〜17:00 
場所:早稲田大学 早稲田キャンパス 7号館419教室
     

  • 第3回:未来の芽をみつめる日々―教育労働者の日常―

作品:『白雪先生と子供たち』
   (1950年、劇映画、大映労働組合映画協議会提携製作、監督:吉村廉)
解説:篠田徹(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
日時:2009年6月13日(土) 14:30〜17:00
場所:早稲田大学早稲田キャンパス 22号館 203教室
*最後に次回の予告編として『驀進』(1946年,約15分)を上映.

  • 第4回:鉄路を守る――国鉄労働者の戦後復興――

作品:1.『邁進』(1946年、労働組合映画協議会、構成・編集:岩佐氏寿)
    2.『機関車C57』(1940年、芸術映画社、演出:今泉善珠 撮影:大小島嘉一)
解説: 佐藤洋早稲田大学大学院博士課程)
日時:2009年7月11日(土) 14:30〜17:00
場所:早稲田大学 早稲田キャンパス 7号館419教室

  • 第5回:我ら黙々として海運復興を闘う―海上労働者の仕事と運動―

作品:1.『戦標船改E』
   (1948年、労働組合映画協議会、脚本:若山一夫、構成・編集:入江勝)
    2.『海に生きる』
   (1949年,労働組合映画協議会,脚本構成:竹内信次,編集:柳沢寿男)
解説:仁田道夫 (東京大学社会科学研究所教授)
日時:2009年9月12日(土) 14:30〜17:00
場所:早稲田大学 早稲田キャンパス 7号館419教室

作品:1.『三池〜闘う仲間の心はひとつ』(1960年)
     (企画:総評・炭労・,三池闘争指導現地委員会)
    2.『1960年安保闘争〜不滅の足跡』(1969年)
     (製作:記録映画作家協会,日本映画・放送産業労働組合,共同映画全国系列会議)
解説:田中直樹 (日本大学名誉教授)
日時:2009年10月10日(土) 14:30〜17:00
場所:早稲田大学 早稲田キャンパス 7号館419教室