【書評】 『電気通信産業における仕事と雇用関係の再編』

『日本労働研究雑誌』No.456,1998年6月

【書評】 H.カッツ編『電気通信産業における仕事と雇用関係の再編に関する国際比較』

鈴木不二一

ここ20年ほどの間に,電気通信産業の急激かつ大規模な構造変化が,世界中で進展している。多くの国々で,電気通信事業の規制緩和,自由化あるいは公営企業の民営化が進展し,「独占から競争へ」が共通の合言葉となった。産業の性格も,電信電話を中心とする基盤的公共財の提供という供給志向産業から,多様なサービスと顧客ニーズへの即応を国際的市場競争の中で競い合う需要志向産業へと,変化しつつある。これに対応して,企業組織も,そして労使関係と人的資源管理も,様変わりともいえる変貌の過程をたどった。
こうした一連の変化は,安定を基調としてきたこの産業の雇用の世界を,大きく揺るがしている。かつての独占事業体は,大規模な組織改編を実施し,ダウンサイジングによる大量の雇用削減が,いたるところでみられるようになった。新しい仕事が生まれる一方で,消滅する伝統的な職域もあり,仕事の構成もまた大きく変わった。効率化が職場にもたらすプレッシャーも高まっている。
ところで,電気通信産業の現状と改革の処方箋をめぐっては,数多くの議論が積み重ねられてきた。技術論,産業論あるいは公共経済学など,さまざまな分野からの研究も発表されている。けれども,この産業の職業生活に一体いま何が起きているのかについては,必ずしも十分な照明が当てられてきたとはいえない。電気通信産業の仕事と雇用における発展傾向を,ヨーロッパおよびアジア太平洋地域の10カ国(アメリカ,イギリス,オーストラリア,カナダ, ドイツ,ノルウェー,イタリア,日本,メキシコ,韓国)について国際比較した本書は,まさにこの欠落を埋めてくれるパイオニア的労作である。


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