格差拡大と雇用の二極化

NTT労組機関誌『あけぼの』2011年10月号

格差拡大と雇用の二極化


所得分配が平等化するパターンはいくつかのルートが考えられる。

一つは、「貧困の平等」である。誰でもが等しく,平等に貧乏になる。国破れて,山河のみが残り,生活の荒廃が全士を覆うような時期に見られた特殊な状況である。ひもじくはあるけれども,社会には連帯感がみなぎる。けれども,このような状態が持続することは誰も望まない。

もう一つ考えられるのは,「富裕の平等」で,誰でもが金持ちになることによる平等化である。もし実現するなら,反対する人はいないだろう。けれども,経済的資源の本質は希少性にあり,またその総量には限りがあるから,このような状態が実現することはない。
所得の平等化の歴史を振り返ると,結局実現したのは,ふたつの極端なケースの中問であった。極端な金持ちと極度の貧困の両方,あるいは片方が減り,その中間の所得層のシェアが増えることによって平等化が実現したのである。1950年代半ばから70年代半ばにかけて,欧米や日本で見られた「中間層的平準化」は,まさにこのパターンであった。

ところで,この「中間層的平準化」の時代は,1970年代半ばを過ぎると,次第にフェードアウトの様相を呈する。とりわけ,1990年代以降は,アメリカを典型とする「中間層の縮小」が工業国全体の共通のトレンドとなりつつある。

分厚い中間層の存在は,政治的安定と同時に,旺盛な国内消費需要の源泉でもあった。「中間層の縮小」による不平等化の進行は,この安定と繁栄の基盤を揺るがす,まさに憂慮すべき事態と言える。

近年の実証研究は,「現在の不平等化の背後にあるもっとも大きな要因の一つが労働市場の構造変動による雇用の二極化である」ことを明らかにしてきた。ヨーロッパと日本の最近の動向についてみていくこととしよう。




全文はこちらから→潮流(経済)(2011年10月号).pdf 直