労研饅頭の略称について
労研饅頭の登録商標は「労研饅頭 別名 労饅」となっています。この「労饅(ろうまん)」という略称ですが、どうも開発者の意図に反して普及しなかったのではないか、と私は思っています。
松山の「たけうち」さんでは、商品名は略さずに「労研饅頭」の四文字をを使っています。また、松山の労研饅頭に言及した文章の中で引用される用例でも、私がみた限りでは、「労饅」の略称の使用例をみかけませんでした。松山の地元の方が、実際に「労饅(ろうまん)」という略称を使うことはあるのでしょうか。お教えいただけたら幸いです。
労研饅頭発祥の地、岡山県では、「ローケンパン」という呼び方が一般的だったようです。ただし、販売元ニブ・ベーカリーの包装にある「ローマン」という言い方を使う人もいたようなので、調査が必要です。下記のエントリーを参照。
- 幻のローケンパン
http://ameblo.jp/bizenwakakusa/entry-10291749387.html
「岡山県民なつかしの味、ローケンパン。」
- 幻の労研饅頭
http://blog.goo.ne.jp/httn/e/6c2d53052e6ec25ce11e4fe7f1abbd2d
「その情報を入手したのは数年前、従兄弟の子が里庄に「ローケンパン」なるものが売られていると言うのだ。」
- 乳酸菌とバナナと労研の肉体
http://ameblo.jp/bizenwakakusa/theme7-10013735276.html#main
「岡山県人の私は、このママイ(オハヨー乳業の乳酸菌飲料)で育ったようなもの。オハヨーのママイとキムラヤのバナナロール、そしてローケンパン。丈夫な私の身体は、この3つから出来ているといっても過言ではありません。」
- 2003年防府読売マラソン参加記
http://www.hi-ho.ne.jp/httn/run/report/03hofu.html
「従兄弟の住む笠岡に前泊し、7時過ぎの電車に乗っていざ防府へ。 今回はスタミナ切れが無い様に前回の東京の時よりも真面目に カーボローディングに取り組み、当日朝もまずは6時半に 小さなローケンパンを2つとおにぎり、小さなあんパン、 胡桃パン半分を食べる。」
- 玉島 B級グルメの町 その2 築山パン けしパン
http://www.okayama-kanko.jp/modules/kankouinfo/pub_blog_detail.php?sel_id=46&sel_data_kbn=0
「子供のころ よく食べていたパンにローマンがある。「ローケンパン」ともいうらしいが 餡入りと黒豆入りがあり、ちょっと塩気があって非常に美味しかったのを思い出す。いまは もう岡山市で製造されていた方も廃業し、作っているお店を私は知らない。」
- ヤスコポーロ見聞録
http://yassy127.exblog.jp/6760390/
「ローケンパン よくわかりましたね。仰るとおりです。クラレかクラボウの関係で従業員の栄養改善の為に組合が開発したと聞いたことがあります。じつは通常はローケンパンと長ったらしく言わないで、私とおなじローマンと言っていました。昔胃潰瘍で入院中よく食べた記憶があります。今は四国で作っているらしく、昨年岡山で買いました。蛇足まで。」
さて、これからが私の考証(?)です。
二つの要素からできている複合語の短縮語を作る日本語のルールとして一般的に知られているのは、前半の要素の最初の2モーラと後半要素の最初の2モーラをとって、4モーラのことばを作ることです*1。東京大学(とうきょうだいがく)を東大(とうだい)、関西空港(かんさいくうこう)を関空(かんくう)、あるいは、ファミリー・レストランをファミ・レス、といった具合です。
2モーラ+2モーラで4モーラの言葉が、われわれにとって安定感を与えることは、日本語ネイティブの実感でもありますし、音韻論で実証されていることでもあります。
労研饅頭(ろうけんまんとう)の短縮語を「労饅(ろうまん)」とすることは、一応ルールにかなっているように思えます。ですが、「ろうまん」という音は、どうも私の語感ではシックリきません。複合語の短縮形であることが、すぐにはピンとこないのです。「浪漫(ろうまん)」という言葉に引きずられるせいかもしれません。また、日本語の短縮語形成は、それほど単純なものではなく、さまざまな例外があります。特に、長音や撥音が含まれる場合には、単純に、前の2モーラ+後の2モーラではなく、別の法則が働くようです。例えば、次のような研究があります。
- 田中真一「日本語のモーラ、音節、フットと単語長 野球声援のリズム結合と外来語」
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/81001535.pdf
- 桑本裕二「日本語におけるモーラ的鼻音の特徴」(日本言語学会123回大会発表要旨)
http://akita-nct.jp/kuwamoto/lsj123.html
- 桑本裕二「モーラ鼻音と後続音節」
以上、散漫に勝手なことを書きましたが、労研饅頭の呼称の分布と、その言語学的考察、というテーマも一考に値するのではないかと考えた次第です。
*1:モーラ(Mora)とは、音韻論上、一定の時間的長さをもった音の分節単位のこと。