アメリカにおける富裕階層への富の集中について

アメリカにおける富裕階層への富の集中について


                     

[メールマガジン「オルタ」96号(2011.12.20)掲載稿の改訂版]


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 多民族国家アメリカはもともと多様な国であった。極論する人は、天国もあれば地獄もあり、アメリカン・ドリームとスラム街が同時併存する振幅の大きさの中にこそ、アメリカ産業社会の活力が埋め込まれているのだともいう。とはいえ、近年のアメリカでは、そうした多様性も,次第に上層と下層への両極分解の様相を強めつつある。

 勝者の一人勝ちの世界では,アメリカン・ドリームの浮かぶ瀬に乗る機会も極小まで縮小し,所詮それははかない幻想にすぎなかったことが露見してしまう。さらには,社会の安定を支えていたミドルクラスの縮小は,アメリカ経済社会にさまざまなきしみを生じさせてきていることにも注目しなければならない。

 こうした兆候に対して,すでにいまから20年前に,アーサー・シュレジンジャー・ジュニアは「アメリカ合衆国の解体(Disuniting of the United States) 」への懸念を表明し,社会統合の危機を警告していた(Schlesinger 1991)。けれども,アメリカにおける富裕階層への富の集中は,止まらないどころか,ますます加速の度合いを高めている。

 今年の夏から秋にかけて,若者たちを中心に全米に拡大した「ウォール街占拠(OWS)」の抗議行動は,一向に改善しない経済格差問題と,その背後にある強大な金融権力への社会的批判を政治課題の焦点に押し上げはしたものの,政策的対応は今後の課題であり,議論の決着はそう簡単につきそうもない。

 先日発刊されたOECDの報告書『Divided We Stand(拡大する所得格差)』(OECD 2011)が明らかにしているように,いまや所得格差拡大の趨勢は,先陣を切って進んでいたアメリカだけではなく,これまで比較的高い平等度を維持してきたドイツや北欧諸国も含めて,ほぼOECD加盟国全体に広がっている。もちろん日本も例外ではない。

 本稿では,アメリカにおける所得不平等化現象とその背景要因,社会的帰結に関する最近の注目すべき研究と議論を紹介し,あわせて政策的含意についても考察してみたい。


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[file:sfujikazu:income_concentration_in_the_USA.txt]